著者自身が経験した激しい鬱体験を元に…
という触れ込みの割に一般論と俗説ばかりで医学的・臨床的根拠の薄いことがほとんど。
スピリチュアルブームに乗っかったプチうつ本に近いような気がする。
本書では「うつ病になりやすい性格」という名目で
メランコリー親和型や執着性格のような性質が挙げられていたり、
セルフチェックとして軽症うつの初期症状のような項目があって、
その辺はそれなりに正しいのだが、
「抗うつ薬はとても効くので」
「豪傑タイプの人はまず鬱にはなりません」
「一番大事な薬は心のケアです」
など的外れなことを平気で書いてあったりする。
うつ病は心の病気というのは完全な間違いではないが、
それ以上に100年近い研究によって治療法が確立され、
現在はそのほとんどが薬物療法と適切なケアで治療可能な
「脳の神経伝達異常によって起こる病気」なのだ。
DSMやICDほど専門的なことを書けとまでは言わないが、
大うつ病エピソードや軽症うつはおろか、
脳の神経伝達異常について全く触れられておらず、
抗うつ薬についても具体的な記述はない。
著者の鬱病体験にしても経過が全く書かれておらず、
本当に鬱を経験したのかどうかがそもそも怪しい。
本書では本来明確に分けられるべき
「カウンセラーによる”カウンセリング”」と
「精神科、心療内科などでの薬物療法を含む”鬱病治療”」を意図的に混同しているか、
「鬱病治療」に関しての情報がほとんど書かれていないと思った。
もちろん実際著者が鬱を経験し、寛解した結果、
自分の病気に対しては否認寄りの態度を取ったのかもしれない。
その上で鬱に苦しむ人を助けたいと思っているのかもしれない。
少なくとも助けたいという思い自体は本書からも読み取れる。
だが真に病気を理解し、苦しんでいる人を助けようとしているにしては
基礎的な点であまりに誇大表現による誤解のリスクのほうが大きい気がするのだ。
「がんばれ」と言ってはいけないとしつつ抗うつ薬や病気の経過について触れず、
文脈的に「がんばれ」というのと大差ない精神論が繰り返されている。
少なくとも本書を読んで医学的、臨床的な知識はほとんど身につかないし、
具体的に鬱病患者に対して適切な対応が取れるようになる人はあまりいないんじゃないかと感じた。
こんな本を読むくらいなら『ツレうつ』とか『「軽症うつ」を治す』とか『軽症うつ病―「ゆううつ」の精神病理』とか『うつ病―まだ語られていない真実』のどれか1冊でも読むほうがよっぽどためになると思われる。